ゆらぎの詩歌日記

好きな詩や歌、俳句などについて語ります

好きな詩~冬の金木犀

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秋、人をふと立ち止まらせる

甘いつよい香りを放つ

金色の小さな花々が散って

金色の雪片のように降り積もると

静かな緑の沈黙の長くつづく

金木犀の日々がはじまる

金木犀は、実を結ばぬ木なのだ。

実を結ばぬ木にとって、

未来は達成ではない。

冬から春、そして夏へ、

光をあつめ、影を畳んで、

ひたすら緑の充実を生きる、

葉の繁り、重なり。つややかな

大きな金木犀を見るたびに考える。

行為じゃない。生の自由は存在なんだと。

        (長田弘 『最後の詩集』より)

 

好きな詩~世界は一冊の本(長田弘)

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本を読もう

もっと本を読もう

もっともっと本を読もう。

 

書かれた文字だけが本ではない

日の光、星の瞬き、鳥の声

川の音だって、本なのだ。

 

ブナの林の静けさも

ハナミズキの白い花々も

大きな孤独なケヤキの木も 本だ。

 

本でないものはない

界というのは開かれた本で

その本は見えない言葉で書かれている。

 

ウルムチ、メッシナ、トンブクトゥ

地図の上の一点でしかない

遥かなく国々の遥かな街々も 本だ。

 

そこに住む人々の本が、街だ

自由な雑踏が、本だ

夜の窓の明かりの一つ一つが、本だ。

 

シカゴの先物市場の数字も 本だ

ネッド砂漠の砂あらしも 本だ

マヤの雨の神の閉じた二つの眼も 本だ。

 

人生という本を 人は胸抱いている

一個の人間は一冊の本なのだ

記憶をなくした老人の表情も 本だ。

 

(つづく)

 

 

好きな詩~まってる J'attends

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また春がくるのを まってる。・・que revienne le printenmps.

雨がやむのを まってる。

運命がつながる日を まってる。

彼女との再会を まってる。

彼女からの手紙を まってる。

ぼくたちの赤ちゃんを まってる。

たのしい週末をまってる。

仲なおりのきっかけを まってる。・・・que ce soit l'autre demande pardon.

 

(Moi, J'attends・・・)

David CALI et Serge BLOH    文 小山薫堂

 

 

 

 

好きな句~風鈴

風鈴に風がことばを教えてる

       (安西絵里香)

 

横浜山手女子高の生徒。幼い句だが、新鮮さがある。風が吹いてきて、初めて風鈴は言葉を発する、会話もできるようになる。”風鈴の澄んだ音色に耳を傾けながら、ふと「あれは風鈴がお話しているんだ」と思う” (大岡信 『新・折々の歌』から)

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好きな詩~木曽の歌(尾崎喜八)

木曽の歌~鳥居峠

 

われわれは木の根・岩角をつたいながら、

今では人も通わない中山道の廃道を

息を切り、汗を垂らして登っていった。

下ではこるりの、上ではめぼその囀りが

深山の昼のしじまに響いていた。

 

峠に近く幾百年を経た橡(とち)の原始林があった。

梢の空に高々と白い花の泡を盛り上げながら

たそがれのような下道は苔と朽木の匂いだった。

星鴉がしわがれた声でやわらかに鳴き

青げらがけたたましい叫びを上げて飛び立った。

 

やがて前方の視野がからりと開けて

われわれは古い峠の頂上へ出た。

きらきら震える暑い空気の山谷の波、

その夏霞八里のかなたに

木曽御岳が膨大な夢のように浮かんでいた。

 

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好きな詩歌~春のさかり

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”きさらぎ弥生春のさかり

草と水との色はみどり

枝をたわめて薔薇(そうび)をつめば

うれしき人が息の香ぞする”

          ー佐藤春夫 『車塵集』(しゃじんしゅう)より

 

 もとの詩は、3世紀後半の中国、魏の時代の女流詩人の一編