ゆらぎの詩歌日記

好きな詩や歌、俳句などについて語ります

2013-01-01から1年間の記事一覧

好きな詩(わたしが一番きれいだったとき)

わたしが一番きれいだったとき(茨木のり子) わたしが一番きれいだったとき街々はがらがらと崩れていって とんでもないところから青空なんかが見えたりした わたしが一番きれいだったとき まわりの人達が沢山死んだ工場で 海で 名もない島で わたしはおしゃ…

好きな歌~春宵の酒場

”春宵の酒場にひとり酒啜る(すする)誰かこんかなあ誰あれもくるな” ー石田比呂史 『九州の傘』 今の季節は、冬なのだから上五は、冬惜しむあるいは年惜しむでもいいかと、も思う。しかし、春愁ということばもあり、そこへつながる春宵が、やはりいいかと思…

好きな歌(幼きどち)

幼きは幼きどちのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ ー佐々木幸綱 歌集『思草』より 幼い子が幼いもの同士で、おしゃべりを楽しんでいる。微笑ましい風景。 こちらまで、なんとも爽やかな気分になります。

好きな句(月)

墨すれば宛てたき名あり月今宵 ー谷口桂子 硯を出してきて墨をする。墨の香りが立ち上ってくる。一片の封書をしたためようかと思う。送る相手は、あの人。(もう冬に入ったのに、秋の句、お許しいただきたい。素敵な句に巡りあったので、書き留めておくこと…

好きな句(紅葉)

恋ともちがふ紅葉の岸をともにして ー飯島晴子 桜紅葉か柿紅葉か。それはともかく、紅葉明かりの岸辺の道を二人で歩きました。ふたりは恋人というわけではありません。しかし不思議な気持ちで。 ほのかな好意は、抱きあっているのではないでしょうか? 恋へ…

好きな歌(繭)

繭(まゆ)の中もつめたき秋の夜あらむ (木下夕爾(ゆうじ)) 晩秋の季節感が、しみじみ伝わってきます。秋惜しむの感があります。 昔、ある人から贈られた句。もう逝ってしまった。

好きな歌(夜旅)

とまるべき宿をば月にあくがれてあすの道行く夜はの旅人 ー京極為兼 「玉葉集」巻八 旅歌 何日もかかる旅の道のり。今夜の宿はそこにあるが、月光を浴びて 明るい道を楽しく歩いてみたくなり、歩き続けることにした。車も 道端の照明もない時代、こんな旅の…

好きな句(桜紅葉)

紅葉(もみじ)してそれも散りゆく桜かな ー与謝蕪村 『詩華断章』(竹西寛子)に書かれていたエピソードを。著者が、円地文子と列車の旅をともにした時、円地文子が問わず語りに言ったことば、 ”このごろはものを知らない人が増えて、しかも知らないことを…

好きな句(木の実降る)

”木を植えし男の墓に木の実降る” (鈴木貞雄) トヨタ中興の祖とされたトヨタ自動車最高顧問の豊田英二氏が亡くなられた。トヨタ自動車とトヨタ自動車販売の「工販合併」を成し遂げ、カローラを市場に送り出してモータリゼーションの時代を牽引した。196…

好きな歌~小野茂樹

(散歩道の酔芙蓉、まだ密やかに咲いています) 五線紙にのりさうだなと聞いてゐる遠き電話に弾むきみの声 ー小野茂樹 彼の相聞歌は、1960年代に多くの人に愛唱されたが、わずか34歳の若さで長逝しました。そのほかの歌、 あの夏の数かぎりなきそして…

好きな歌(秋の彼岸)

都々逸もなかなか洒落ています 女房にゃいえない ほとけのために 秋の彼岸をまわり道 すみれつむ子に 野の道問えば 蝶のゆくへを 花でさす

好きな詩(あなたはそこに)

あなたはそこに ー谷川俊太郎 「あなたはそこに」 谷川俊太郎 あなたはそこにいた 退屈そうに右手に煙草 左手に白ワインのグラス部屋には三百人もの人がいたというのに地球には五十億もの人がいるというのに そこにあなたがいた ただひとり その日その瞬間 …

好きな歌(ねむる子)

わが指を乳吸ふごとく吸ひながらねむる子の顔見つつ酒飲む ー相馬御風「御風歌集」 この人は、早大校歌「都の西北」の詩を書いた。 プールサイドの木陰で、赤子の相手をしていたら、いつのまにか私の膝を なめていた。それで、この歌を思い出した。穏やかな…

好きな句(釣りしのぶ)

夏の季語で申し訳ありません。昔は、よく家の軒先に釣り忍を吊るして一服の涼を楽しんでいました。 とかくして 今日も暮れけり 釣り忍 (久保田万太郎) 今日一日大変であった。暑かったし、予想もつかないさまざまな ことが起こった。それを何とか解決して…

好きな歌(睡蓮)

モネの睡蓮咲く古風な昼下がり ピアノピアニッシモにて弾けり ー (斎藤史(ふみ) 「渉りゆかむ」より)

好きな歌(三月書房)

いつ来ても光も音もひそかなり寺町二条三月書房 ー辻 喜夫 京都には、魅力的な古書店がある。もう10年以上前に買った『京の古本屋』という 古本探しの必携書を携えて、あちこち歩くことがある。その中で、なぜか古本屋ではないのに三月書房というのが出て…

好きな詩(辻野先生)

(辻野先生)ー『君が好きだよ』(大木実)より 詩ができました 先生みてください 本を読む楽しみを 文を綴る(つづる)喜びを 教えてくださった 辻野先生 私の父母は本を読まず 私の家は貧しく 家には一冊の 字引もありませんでした 私は路地から路地へ 走…

好きな歌(うまさけ)

”私は酒に酔うこがいやだから、酔わないことにしている。 しかし友と酔心をともにするほど、人間として楽しい境界はない。” ー坂口謹一郎 『愛酒楽酔』より とつくにのさけにまさりてひのもとの さけはかほりもあじもさやけき たまきはるいのちの限り究めはや…

好きな歌(良寛の書)

つくづくと良寛の書を見てあれば風のごとしも水のごとしも ー吉井勇 (『玄冬』より) 良寛の書の風韻を仰望して、その風・水のごとくありたい自分の志向をもこめた歌 山本健吉 句歌歳時記(夏)

好きな歌(銀河)

秘めことのなき歳となり星まつる -阿部みどり女 星祭は七夕の別称である。本音では、秘め事はいまもあるのではないか? 窓に銀河妻ならぬ人おもひ寝る -上村占魚

好きな歌(新しき家具)

きみがうたうクロッカスの歌も 新しき家具の一つに数えむとす ー寺山修司 『血と麦』より 新婚の二人が新しいアパートに引っ越してきて、荷物の整理をしている。クロッカス、クロッカス きれい、そんな唄を新妻が可愛い声で口ずさむ。この歌声も家具の一つに…

好きな歌(さみだれ)

さみだれのあまだればかり浮御堂 ー阿波野青畝(せいほ) 浮御堂は近江八景の一つ。びわ湖の西岸堅田にあり、湖に突き出たお堂です。 堅田には、<余花朗>といううまい鰻と酒を供する料亭があります。鰻の 蒲焼は、ぱりぱり焼いてあって絶品です。これを食…

好きな歌(魂遊べ)

波瀾なき一生(ひとよ)も一生 昏々(こんこん)とたましひ遊べ あめつちの間 ー高野公彦 仮に一切を見通す仏がいるとして、仏の目からみれば人間はみな迷える蝶のようなもの それなら一生を迷えるまま、無心に遊ぶのも悪くはない。

好きな歌(風鈴)

”風鈴に風がことばを教えてる” ー安斎絵里香 「17音の青春」より この句を詠んだときは、まだ高校生

六月の歌

六月ー命たのしいかな水無月(みなずき) 水無月来たりなば 日もすがら われは愛する者とともに芳しき乾し草に座らばや さて和やかなる空に白雲が築くなるかの 日かげ射し入る宮居たかく見惚けばや(みほうけばや) 君はうたひ 君をわれはうたひ 日もすがら…

雨の歌(その2)

(北斎 燕と紫陽花) さみだるる一灯長き坂を守り (大野林火) 長い坂に一つだけ街灯があって坂を照らしている。その姿はいつも変わらないのに、さみだれの中で灯の輪をまとい静かに立っている。坂をひとり守っているかのように。 この歌に、言志四録(言志…

雨の歌

とうとう雨の季節にはいりました。雨は音を消し、しっとりと落ち着いてくるから好きです。 天地(あめつち)は すべて雨なり 紫の 花びら垂れて かきつばた咲く (窪田空穂) 余談ですが、 この杜若(かきつばた)を読み込んだ在原業平の名歌があります 唐衣…

好きな歌~『ポケット詩集』より(その三)

いつもこのブログにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。 すこし長くなりますが、最後までおつきあいいただければ、嬉しいです。 (世界は一冊の本 長田弘) 本を読もう。 もっと本を読もう。 もっともっと本を読もう。 書かれた文字だけが本ではない…

好きな歌~『ポケット詩集』より(そのニ)

(系図 三木卓) ぼくがこの世にやって来た夜 おふくろはめちゃめちゃにうれしがり おやじはうろたえて 質屋へ走り それから酒屋をたたきおこした その酒を呑みおわるやいなや おやじは いっしょうけんめい ねじりはちまき 死ぬほどはたらいて その通りくた…

好きな歌~『ポケット詩集』より

10cm☓15cmほどの小さな「ポケット詩集」(童話屋)、その中には素敵な言葉、楽しい言葉、心に響く言葉が詰まっている。そこから三回ほどにわたって、いくつかご紹介します。 (聴く力 茨木のり子) ひとのこころの湖水 その深浅に 立ちどまり耳澄ま…