好きな詩~冬の夜道
好きな詩~冬の夜道
”冬の夜道を 一人の男が帰ってゆく 激しい仕事をするひとだ
その疲れ切った足どりが そっくり それを表している
月夜であった 砂砂利を踏んで やがて一軒の家の前に
立ちどまった それから ゆっくり格子戸を開けた
「お帰りなさい」 土間に灯が洩れて 女の人の声がした
すると それに続いて 何処か 部屋の隅から 一つの小さな
声が云った また一つの別な小さな声が叫んだ
「お帰りなさい」
冬の夜道は 月が出て ずいぶんと明るかった
それにもまして ゆきずりの私の心には
明るい一本の蝋燭(ろうそく)が燃えていた。”
山深い信州の自然や人たちを愛した津村信夫の抒情詩。